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古川日出男の本

『13(じゅうさん)』 1998 幻冬舎
 色覚を端緒として、視覚と聴覚と第六感とすべての感性、その根源にある魂に訴えかける物語。宗教、政治、感性。ハイテク近代文明社会と密林の未開の部族。様々な次元の世界が重なり合う。ストーリーは生々しくもあり、すべてが夢のようでもある。
 主人公響一の色覚障害からストーリーに入るのも新鮮。劇中劇「すべての網膜の終り」も印象的。ガブリエラとは虚か実か。謎は尽きない。
 説明が難しい物語。主人公が虐殺という衝撃の事件に見舞われながらも、それについては心理描写を行わずに淡々とストーリーが進む。ストーリーを追っただけでは説明にならず、観念小説に近いような印象を受ける。埴谷雄高の作品を読んだときの印象に一番近いかもしれない。感動したかというとそうでもないが、今までに読んだ小説の中では間違いなく五指のうちに入る異色作。読みごたえがあった。やっぱりこういう骨のある印象の作品は好きだ。

『沈黙』 1999 幻冬舎
 これも、観念小説か。ミステリーと言えば広い意味においてミステリーと言えなくもない。
 鍵になるのは音楽。「ルコ」の謎を追って美大生の主人公(女)が自分の母方の家系を遡り、”悪”を追い詰めていく。闇を打ち砕くのは音楽だ。闇は死の象徴で音楽は生きることそのもの。そこには大瀧鹿爾一個人が感得し、その子修一郎に伝えた真実がある。行為という”悪”に呪縛された一族の運命。特異な才能の血による一子相伝。
 この人の作品は普通は文章では表現しにくい視覚や聴覚を敢て表現しようとするところに特徴がある。前回は色だったが、今回は音にこだわっている。
 テーマは多分に仏教的だと思った。行為による業の連鎖反応。行為が悪だと言っているが、実は悪だと、自分に悪が宿ったと自覚するところから悲劇が始まるのではなかろうか。呪縛、捕らわれ。そういうことを思った。

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