◆
それは高校生活も三年目の、残暑厳しい夏休み明けの授業初日のことだった。
「ほほぉー! これはびっくり!」
有名進学校の朝の教室風景。受験シーズンも間近に迫り、勉学のための静謐で緊張感のある空気が支配しているかと思いきや、青葉夏乃の目の前にはけばけばしい色合いの活字が躍っていた。
「ねえ、松野さんてば。朝からスポーツ新聞読むのやめなよ。通勤途中のサラリーマンじゃないんだからさ」
夏乃の前の席の松野は女子高生でありながらプロレスファンだ。一家揃ってスポーツファンのため松野家では三種のスポーツ紙を購読し、毎朝それぞれ贔屓の選手の動向チェックを怠らない。
一番安い一紙を購読するのがやっと。その一紙も節約のため出来れば解約したいが毎朝入ってくる売り出し広告の利便性を考えると踏ん切りがつかないというのが実情の青葉家とは随分な違いだ。
熱心に紙面を見ている松野の姿に、また昨日の試合で何かあったのかと思っていると、
「だって、見てよ。これ!」
松野は夏乃に向けて読んでいたスポーツ新聞の一面をかざしてみせた。
『桐生(30)ついに男と結婚!』
そこには紙面一杯に満足げな表情の俳優桐生のバストショットが載っていた。見出しの「男」という文字が、そこだけ違うフォントで拳大に強調されている。
「へえ。桐生ホントに結婚するんだ。日本の芸能界もここまで来たかって感じだね」
「ゲイ宣言したときも驚いたけどねー。今日はどのスポーツ紙も一面はこれで一杯だよ」
夏乃は頬杖をついて自分の机の上に逆さまに置かれた新聞を眺めた。
「お兄ちゃんショックだろうなあ」
「あ、そっか。青葉さんとこのお兄さんって桐生のファンだっけ」
「そ。昔から結構熱烈なファン」
桐生は東大の法学部出身。理知的で冷徹な敵役をやらせたら当節右に出る者はないと評判の所謂二枚目俳優で、数年前に男子学生との交際を認め実質ゲイ宣言をしていた。当時は桐生がゲイの役を演じた映画の公開が迫っており、ゲイ宣言は宣伝のためと穿った見方をする向きもあったのだが。
「あれって話題作りのためじゃなくて本物だったんだ。今までタレントでオネエキャラは数多いたけど、俳優でゲイ宣言したのって初めてじゃない?」
「しかも、堂々とマスコミ集めて記者会見だよー。度胸あるよねー」
夏乃が逆さまの記事を目で追う。
「まあ、養子縁組ってことだけどさ。これって実質的には結婚てことだよね。さすがに相手の名前も職業も伏せてあるみたいだけど」
「そりゃ女と違って家庭に入ればいいってもんじゃなし。マスコミに知られたらいろいろと大変だろうからねー」
平凡な女子高生には所詮無縁の別世界のこととばかりに二人で無責任話に花を咲かせていると、クラスの男子の呆れ声が聞こえてきた。
「何だ、早渡。その顔は?」
振り向くと、教壇側の入り口にクラスメイトの早渡櫂人が立っていた。片頬だけが遠目からもはっきりとわかるほど赤くなっている。
「ああ。ちょっとそこでな……」
夏乃達が遠目に唖然と見ていると、
「俺知ってる」
近くにいた男子がぼそりと漏らす。
「あいつ校門の前で女の待ち伏せ喰らって殴られてた。しかも、グーで……」
「ありゃー」
「……そりゃあね。たまにはあるでしょうよ、そういうことも」
クラスメイトの冷めた、或いは呆れた視線を特に気にした様子もなく、早渡は夏乃達に近付いてきた。早渡の席は夏乃の後ろだ。
「おはよう、青葉さん」
頬は腫らしていても爽やかな笑顔の早渡に夏乃も大人の礼儀として一応挨拶を返す。が、笑顔がぎこちなくなるのは否めない。
「おはよ……」
朝からお盛んだね……。
という台詞は心の中にしまっておく。
早渡は夏乃の隣まで来るとふと机の上に目を留めた。そこにあるものを見た途端、クラスメイトの痙った笑顔を見ても少しも動じることのなかった穏やかな表情が激変した。
「何だ、これはッ……!」
絞り出すように低く唸ると新聞をひったくるように手に取る。紙面を間近に凝視し、その手が細かく震え出したと思った次の瞬間。早渡は新聞を真っ二つに引き裂いていた。
「ちょ、何すんだ! 人のもん!」
そのまま新聞を投げ捨て、抗議しようと席を立った夏乃を無視して早渡は大股に教室を出ていく。
「ちょっと! 物を粗末にすんな! 謝ってけ! バカッ!」
「どうしたんだ、早渡は」
「そんなにこの記事が気に入らなかったのか?」
クラスの男子が唖然としながらも打ち捨てられた新聞に目をやって訝しんでいると、早渡を廊下まで追いかけていった夏乃が戻ってきて声を荒らげた。
「何よあれ! 僻(ひが)んじゃってさ!」
「いやいやー。それはちょっと違うんじゃない? 僻む必要全然ないじゃん」
床に散乱した新聞を拾いながら松野が異議を唱える。
「む。確かに言われてみれば……」
早渡櫂人(さわたりたくと)は都立朱雀高校始まって以来のモテ男だった。
黙って立っているだけで女の方から寄ってくるため一部では伝説のタラシとまで呼ばれて、生意気にも信者までいるらしい。その逆ナン率実に九十八パーセント。その残りの二パーセントもよく見たら実の母親と姉だったというエピソードまでまことしやかに囁かれている。そこまでモテるだけのことはあって実際体格も良く件の桐生をややソフトにした感じの色男で、おまけに成績もそこそこよかった。
「にしても、今の反応はちょっとフツーじゃなかったよねー」
松野が小首を傾げる。
早渡櫂人は基本的に愛想はそんなに悪くない。普段は公平で人当たりもいい常識人だ。
「虫の居所でも悪かったんじゃないの。さっき盛大にふられたんでしょ?」
「はは……。まあ、それはあるかもねー」
進学校と言えども健全な高校生。クラスメイトに彼女の一人や二人いたとしてもとが咎(とが)める気も権利も夏乃にはまったくない。が、校門に迎えに来る女が毎回違うというのは明らかにやり過ぎだ。物事には限度とか節度とかいうものがある。
女を何だと思ってるんだ。あのタラシ男。
このように、青葉夏乃における早渡櫂人の印象は最悪の状態から波乱の二学期はスタートしたのだった。
◆
深夜、人も疎らな改札を抜けたところで水樹の携帯が鳴った。
ガード下の薄暗い照明の下、教科書の詰まったトートバッグの中から携帯を探し当て電話に出ると、耳元で深みのある、よく通る声がする。
「やあ、水樹君。今日の新聞はもう見たかな」
いつもの癖で、水樹は困ったような笑みを漏らした。
「ええ。今朝電車に乗ってびっくりしましたよ」
午後十時を過ぎ、寂しく虫の音が聞こえる以外辺りはひっそりと静まり返っていて、人の声は意外とよく響く。
「記者会見したんですね」
水樹がトーンを落として極低く応えると、苦笑混じりの声が聞こえてきた。
「何だか先走ってしまってすまないな。どうやら新居探しを勘付かれてしまったようだ」
「いえ、もう仕方がないですよ。ここまで来たらどの道いずれは知られるでしょうし」
「そう言ってもらえると助かるよ。こんなことで君に翻意されては敵わないからな。君の方はどうかね。夏乃君は」
「……はい」
水樹は、辺りを憚って俯き加減にしていた目線を上げる。高架を潜り抜ける狭い道路の向こう側、もうすぐそこにアパートの明かりが見えていた。あの細やかな明かりの下で夏乃が自分の帰りを待っている。
「これから話してみようと……」
「そうか。賛成してくれるといいのだが。すんなりとは行かないだろうな。何しろ君達は二人きりの兄妹なのだから」
「そうですね……」
水樹は目を伏せ、静かに決意を口にする。
「でも、何とか説得してみます」
携帯の向こうの気配は頷いたようだった。しばらくしてから再び穏やかな声がする。
「ひとつ聞いておきたいのだが」
「はい、何でしょう」
「君が血の繋がった兄ではないということを夏乃君は……?」
「いえ。知りません。僕が養子になったのは夏乃が生まれる前でしたから」
「真実を告げるつもりはあるのかね?」
「いえ。今のところは」
「そうか。では、そのように接するとしよう」
「気を使って頂いてありがとうございます」
「必要な書類は揃えておいた。後は君のサインと夏乃君の同意だけだ。君だけに切ない思いをさせてすまないが、頼んだよ」
「はい」
水樹はきっぱりと頷くと、アパートの階段に足を掛けた。
◆
テーブルに頬杖を突きながら夏乃は一枚のプリントを睨んでいた。
進路調査票。このプリントに最終的な志望校を書いて今週中に学校に提出しなければならないのだ。
これまでの進路調査では当たり前のように第一志望を都内の国公立大学、即ち東大文三としてきたのだが、いよいよ本格的に受験となると夏乃の気持ちは進学と就職の間で激しく揺れ動いていた。
成績は特に問題はない。夏乃の成績は校内で上の中ぐらい。努力次第では十分狙える位置だ。だが、両親を早くに亡くした青葉家には経済的な問題があった。
現在青葉家の家計を支えているのは、中卒で働く兄の水樹のみ。十六で父を亡くし、僅か二カ月で朱雀高校を中途退学せざるを得なかった水樹は夏乃を育てるため愚痴も言わずにずっと工場勤めをしてきた。
その水樹が医者になりたいと告白したのは夏乃が中二の秋。成績優秀で将来を嘱望されていた兄を差し置いて自分だけが高校に進学することに後ろめたさを覚えていた夏乃はそれを有頂天になって歓迎したが、当時は考え至らなかった問題が、気が付けば今山積みになっていた。
水樹は現在定時制の四年生。夏乃と同じくこの二月には東大理三を受験する予定だ。
兄の決意を聞いた時から学資を貯めるため節約に努めてきたつもりの夏乃だったが現在の時点では目標金額には至っていない。
その他にもっと根本的な問題もある。当然のことながら、二人とも進学してしまえば経済的な基盤を失ってしまうのだ。
学費は奨学金で何とかしたとしても、生活費はどうするのか。焼け石に水かもしれないが、自分が就職した方がよくはないか。
考えれば考えるほど様々な問題に突き当たり夏乃の心は揺れ動く。
自分も就職して二人で働けば、今年は無理でも来年度以降に兄が受験するチャンスはあるかもしれない――。
「ただいま」
掛けられた声に驚かされ、夏乃はテーブルから飛び上がった。考えに浸りすぎて鍵を開ける音にも気づかなかったのだ。
「お帰り!」
慌てて水樹を台所まで出迎えると、鍋に火を掛け、冷蔵庫から総菜を取り出す。
その間に風呂場でざっと手足を洗い奥の部屋に入った水樹は、テーブルの上のプリントに目を留めた。
「夏乃、これ」
「ああ、うん。進路調査票。最終確認なんだって。十月にセンター試験の願書受付始まるし、受験案内もそろそろ来るから」
しばらく立ったままで調査票をじっと見ていた水樹は、その場にきちんと正座すると夕食を運んできた夏乃を見上げた。
「夏乃、ちょっと話があるんだ。そこへ座ってくれないか」
「え、なに……?」
いつもとは違う兄の改まった雰囲気に夏乃もきちんと居住いを正す。
水樹は夏乃の不安の入り交じった瞳を見るとおもむろに話を切り出した。
「知っての通り僕は現在定時制に通っている」
夏乃は黙って頷く。
「それで、夏乃には黙っていたけれど、実はそのために僕はある人から学資援助を受けているんだ」
「え?」
驚いた半面、そうだったのかと夏乃は妙に納得する。
水樹は定時制通いのために前の会社を辞め違う会社に移った。結果、学校へ行く時間が出来た代わりに残業も夜勤もなくなった。それでもこの四年間、経済的にそれほど苦しくなったという実感はない。考えてみれば不思議なことだった。
「土曜日のバイトも実はその人に雇ってもらっている」
「……そうだったんだ。道理で。電話番にしては時給が破格過ぎると思ったよ」
「でね、夏乃」
水樹が僅かに夏乃に顔を近付けその目を覗き込むようにして見る。少しだけ間を置いてからゆっくりと口を開いた。
「その人が僕を養子に欲しいと言うんだ」
「え……?」
自分の顔を見たまま茫然と固まってしまった夏乃に水樹はなるべく優しく穏やかに言葉を接ぐ。
「これまで四年間学資援助をしてもらったけど、いよいよ医学部を受験するとなるとまた一段と費用が掛かる。学費の他に生活費の問題もあるし、贈与税控除の範囲内では追い付かなくなるんだ。だから、いっそのこと養子縁組してしまえば税金の心配もなくなるからって」
水樹は未だ黙ったままの夏乃の顔を心配そうに窺う。
「夏乃、聞こえてる……?」
「うん……聞こえてるよ」
最初の衝撃から何とか立ち直り、夏乃は目の前の水樹の顔を改めて見る。水樹は心配そうに自分を見ていた。
この目の前の優しい兄が自分の兄ではなくなる。余所(よそ)のウチの人になってしまう。
それでも、夏乃は水樹には何としても医者になってほしかった。夢を叶えてほしかった。
「……いいよ。兄さんそれで医者になれるんだよね」
夏乃がやっと言葉を返すと、水樹は目を逸らさずに頷いた。
「うん。頑張るつもりだ」
低く、少し掠れたその声が温かくて優しくて、涙が出そうになる。
でも、これは兄の門出だ。
夏乃は笑顔を作る。
「兄さんがお医者になれるなら反対しないよ。だって、今までいろいろ節約頑張ってきたけど、このままじゃどうやったって医学部に通うお金なんて作れないもん。兄さんはずっとあたしを育てるために頑張ってきたんだから、今度は自分のために頑張って」
「……うん。ありがとう、夏乃」
「でもさ」
不意に夏乃が俯く。
「なに?」
「余所に養子に行っちゃっても……兄さんはあたしの兄さんだよね?」
「夏乃……」
「時々は遊びに行ってもいい?」
堪え兼ねたように自分に近付き手を握ってきた夏乃を見て、水樹は胸が熱くなった。しっかりとその手を握り返す。
「大丈夫。今までと何も変わらないよ。その人はね、夏乃も一緒に住もうと言ってくれてるんだ。経済的なことも面倒見てくれるって言ってる」
「……え? いいの、そんなの?」
夏乃が驚いたように顔を上げる。
「うん。聞いた時は僕も驚いたけど、正直ここに夏乃ひとりを置いていくのは心配だから、お言葉に甘えた方がいいと思ってる」
夏乃はぽかんと口を開けた。
「なんか、すっごく太っ腹な人だねえ。お金持ちなの? どんな仕事してる人?」
「ええと、それは……」
僅かに目を逸らし困ったような表情で珍しく口ごもる水樹を見て、夏乃が心配そうににじり寄る。
「え……なんかヤバイ仕事してる人とか? まさかヤクザ屋さんじゃないよね」
「いや、そうじゃないよ。そうじゃない。立派な仕事をしている人だよ。ええと、その……そう、芸能関係かな」
「芸能関係? 芸能プロの社長とかプロデューサーとか?」
「まあ、具体的なことは会えばわかるよ」
曖昧な返事を繰り返し困ったように笑うだけの水樹を見て夏乃は眉根を寄せる。
「ねえ、四年も援助してもらって今更何だけど。兄さん、もしかして騙されてんじゃない? 大丈夫? 兄さんって少し人が良すぎるとこあるから」
水樹はやはり困ったような笑顔のまま緩く首を横に振った。
「心配はいらないよ。その人はね、お父さんの知り合いだった人なんだ」
「え、お父さんの?」
「うん。お父さんに恩があるんだって言ってた。だから夏乃のことも放っておけないんだって」
「そっか。そうだったの。お父さんが守ってくれたんだ、お兄ちゃんのこと……」
夏乃がテレビの上の父の写真を振り仰ぐ。
「そうかもしれないね」
水樹も穏やかに微笑むと、両親の写真に目をやる。写真の中の父はにこやかに笑っていた。
◆
目の前の建物を夏乃は唖然として眺めていた。
まだ午前九時にもならない都内の一等地。緑が多く配置された広い敷地に、天まで聳(そび)えるかのような高級マンションが現前している。一体どんな人達が住んでいるのか、土曜日だと言うのに人の姿は見えなかった。
恐る恐る足を踏み入れたエントランスホールは採光のたっぷり取られた瀟洒な造りで、安物のTシャツにジーンズというラフな格好の水樹と夏乃には如何にも不釣り合いだ。しかし、ここが水樹のパトロン、未来の養父から指定された場所なのだから仕方がない。
「すっごいねえ。これって何階ぐらいあるのかな。敷地もウチの学校ぐらいなら軽く入っちゃいそうだよね」
夏乃がエントランスの高い天井を見上げながらふらふらと歩いていく。
「……ええと。ああ、ここだ」
連絡用のインターホンを発見した水樹が番号を押すと、すぐに応答があった。
「おはようございます。水樹です」
「やあ、待っていたよ。上がってきたまえ」
念のために部屋番号を確認して通話を切ると夏乃が首を傾げて見上げてくる。
「今の人がそうなの?」
「うん。そうだよ」
「低音の凄くいい声だね。声優さんみたい。音の質悪いからあんまり良くわかんなかったけど……」
エレベーターに向かって歩きながら夏乃が首を捻る。
「なんか、誰かの声に似てるんだよね。誰だったかなあ」
そんな夏乃の様子を横目に眺め、僅かに苦笑しながら水樹はエレベーターを呼ぶ。
目指すフロアは最上階にあった。
足を踏み入れたそのフロアは通路も踊り場の空間も広々として、明るくゆったりと設計されていた。人が擦れ違うのにも気を使う、二人が今住んでいるアパートとは雲泥の差だ。
目的の部屋を探し当て、いよいよ玄関のドアの前に立つと、夏乃は落ち着かない様子であちこち服装を点検し始めた。
「なんか緊張するなあ。ねえ、兄さん。あたしどこかおかしいところない?」
「ないよ」
水樹は笑った。
「大丈夫。そんなに難しい人じゃないから。普通にしてればいいよ」
水樹がチャイムを鳴らすと間もなくガチャリと解錠する音がした。ドアが開く。
「やあ、よく来たね」
顔を出した人物を見て、夏乃は唖然とその場に固まった。
間近で見ると首が痛くなるような見上げる上背。彫りの深い、理知的でクールな印象の端整な容貌。
テレビでよく見掛ける美丈夫は、絶句してしまった夏乃に向かってにこりと微笑み掛けた。
「私のことを覚えているかな、夏乃君」
覚えているも何も。このよく通る独特な深みのある声は、やっぱり間違いない。
「……桐生?」
夏乃の驚き振りを見て桐生はくすりと笑った。それからドアを大きく開けて二人を招き入れる。
「こんなところで立ち話も何だ。さ、中に入りたまえ」
「えー? これってどういうこと?!」
混乱する夏乃を促して明るい南向きのリビングまで案内すると、桐生は二人を振り返った。
「来てもらったのはいいが、実は引っ越しもまだの状態でね。その辺のクッションを敷いて適当に座ってくれないか」
そこは八畳二間分ぐらいはあるかなり広いスペースだった。桐生の言う通りまだ家具の類いは一切なく、がらんとしている。
ドラマで見慣れたスーツではなく、もう少しラフなカジュアルウエアに身を包んだ桐生は、キッチンから飲み物が入っているらしいコンビニの袋を持ってくると、それをリビングの中央に直置きして自分も頓着なく座り込んだ。フローリングの床に胡座をかく桐生というのはちょっと他では見られない光景だ。
CMを見ているような感覚でその光景をぽかんと眺めながら、夏乃はクッションの上に座り込み、目の前に突き付けられた事実を整理するため取りあえず思ったことを口に出してみる。
「ええと……つまり、兄さんに援助してたのが桐生ってことなの? え! それじゃ、桐生の結婚相手って……」
夏乃は唖然と傍らの水樹を見る。水樹は困ったように笑った。
「だから、結婚じゃなくて、養子縁組なんだけど」
「えーっと……。んー? ああ、そっか。受験のためだもんね。だけど、え? そうするとー……」
混乱の極みで表情がくるくる変わる夏乃を桐生は面白そうに眺めている。
「それじゃ、いつだったかサインをもらった時は、もう二人とも知り合いだったってこと?」
夏乃はフローリングにぺたんと両手を突き、身を乗り出して二人を見比べた。
「うん。まあ、そういうことになるね」
水樹がますます困ったような表情になる。
「呆れた! よく人前であんな大芝居出来たよね。もう、信じらんない」
妹に責められ言葉もない様子の水樹を見兼ねて桐生が苦笑混じりに弁護を始める。
「あの時は、私と君を引き合わせるために水樹君がとっさに一芝居打ってくれたんだよ。私が夏乃君に会ってみたいなどと口走ってしまったものだからね」
夏乃が桐生を見返すと水樹も控え目に口を開いた。
「スクープ記事の直後でいろいろ騒がれてたし、あれを逃したらいつになるかわからないと思ったから……」
「私は君達のお父さんに恩義がある。先生の娘さんには一度でいいからお会いしたかったんだよ」
夏乃が父という言葉に反応して表情を改めると、桐生はかいていた胡座を解いた。夏乃の方へと向き直り、端座して居住まいを正す。
「夏乃君、改めて自己紹介しよう。桐生というのは芸名だ。私の本名は早渡透。知っての通り本業は俳優だが、弁護士会にも所属している。本日君に来てもらったのは、君への挨拶も兼ね、私と水樹君の養子縁組についての同意をもらうためだ」
そこまで一気に淀みなく話すと、桐生こと早渡透は夏乃の目を見てフローリングに折り目正しくぴたりと両手を突いた。
「き、桐生さん?!」
驚き慌てる水樹には構わず、まだ未成年の夏乃に対し透は丁寧に頭を下げる。
「改めてお願いする。夏乃君、君のお兄さんを私の養子とすることを許してほしい。ご両親共既に亡くなっている君にとって水樹君を養子に出すということがどれ程のことなのか十分承知しているつもりだ。しかし……」
透は顔を上げて夏乃の目を真っ直ぐに見据える。
「私は、水樹君には本人の希望通り立派な医師になってもらいたいと心から願っている。そのための方便だと思って水樹君を私に預けてはもらえないだろうか」
水樹が心配そうに見守るなか、二人はしばらく対峙していた。やがて、夏乃が小さく息を吐き、おもむろに口を開く。
「桐生さん、あたしも水樹兄さんには医者になってほしいです。自分の夢を叶えてほしいです」
「夏乃君……では」
透の真摯な眼差しを受け止めて夏乃はこくりと頷き、自分も同じように手を突いて頭を下げた。
「水樹兄さんをよろしくお願いします」
「ありがとう、夏乃君」
ほっと息を吐き破顔すると透は夏乃の手を取る。
「これから先、君にこれ以上の悲しい思いはさせない。君のお父さんには比ぶべくもないが、私のことは水樹君同様、もう一人の兄だと思って頼りにしてくれていい。もちろん、君もここに同居してもらうし、生活費も学費も一切私が引き受けよう」
「でも、それじゃいくら何でも」
夏乃は僅かに眉根を寄せる。
「学費ぐらいは自分で何とかします。二人分の学資にと思って貯めてきた貯金もあるし」
「遠慮はいらない。それは君の結婚資金にでも取っておきたまえ」
「え、でもやっぱり学費ぐらいは自分で出したいです」
「夏乃、そのことは後でよく話し合おう……」
頑として譲らない夏乃に溜め息混じりの水樹を見て、透は愉快そうに笑った。
「やはり兄妹だな。頑固なところはそっくりだ。わかったよ。好きにしたまえ。その代り学費以外は私の裁量で行かせてもらおう。それでいいかな」
「はい。ありがとうございます」
夏乃が笑顔で同意したところで、忙しなく表のチャイムが鳴った。透が腕時計をちらりと一瞥してから玄関に目をやる。
「やっと来たな。だが、タイミング的にはタイムリーだ」
「え?」
「誰が?」
きょとんとする水樹と夏乃をリビングに残し、透は玄関に出向いていく。
ドアを解錠した途端、
「やっと捕まえたぞ、この野郎!」
激昂した声と共に大きな人影が飛び込んできた。
「ここんとこ、ちっとも帰ってこねえと思ったら、偉そうにこんなとこに家なんか買いやがって!」
相手から繰出された一撃を身を反らしただけで綺麗に除けると、透はその拳を捕らえる。
「何で除けんだよ!」
「当然だろう」
上がり框の下から睨み付けてくる、自分とそう背格好の違わない男を見下ろして、透は大仰に眉を上げてみせる。
「小学生の時とは違って、さすがに当たればただではすまないからな。私が顔にケガでもしたらどうなると思う」
うっと言葉に詰まる男に透は更に言葉を接ぐ。
「代役の検討、スケジュールの調整。現在撮影中のドラマも映画もすべて大なり小なり何らかの変更を余儀なくされる。テレビ局やスポンサー、関係各社に多大な迷惑が掛かり、莫大な損失が出るだろうな。損害賠償を請求されたらお前が一生稼いでも追い付かないと思うが。どうだ、櫂人?」
目の前の落ち着き払った顔をふてくされたように見ると、櫂人は自分の拳を掴んだままの兄の手を邪険に払い除けた。
「実の弟脅す気かよ」
「私は事実を言っているだけだがな」
透はあくまでも余裕の態度を崩さない。
「まあ、とにかく上がれ。言いたいことがあれば中で聞こう。お前に会わせておきたい人もいるしな」
「会わせておきたい人?」
櫂人が足下をよく見ると、透の大きな革靴の他に小振りなスニーカーが二足揃えて置いてある。
眉間に皺を寄せ、これ以上はないぐらいの不機嫌面で、早渡櫂人は兄の新居に足を踏み入れたのだった。
「え、早渡……君?」
透とリビングにやってきた人物を見て、夏乃は飲んでいた炭酸飲料を噴きそうになった。口を拭って思わず立ち上がる。
「……青葉さん」
櫂人も唖然と立ち尽くしている。
「何でこんなところにいるんだよ」
「何でって、それはこっちが聞きたいよ。どうして早渡……そっか!」
夏乃は透を見上げる。
「名字が同じだ……」
「そう言えば、夏乃君と櫂人は高校が同じだったか」
夏乃に見上げられて透は鷹揚に笑う。
「二人は知り合いなの?」
「っていうか、クラスメイトなんだけど……」
水樹の問いに答えてから夏乃は改めて櫂人を見た。
櫂人はまだ混乱している様子だ。唖然と口を開けて夏乃とその隣の水樹を見ている。
「青葉さんは一体何でここに……」
櫂人の疑問に、夏乃は兄の顔をちらりと見てから答えた。
「兄さんの付添いかな」
「付添い?」
櫂人が水樹に目をやったところで、この辺りが頃合いと見てか、透がおもむろに口を開く。
「水樹君、紹介しよう。これが弟の櫂人だ」
紹介を受けて水樹が櫂人に向き直り深々と頭を下げる。
「はじめまして。青葉水樹です。お兄さんには大変お世話になっております。妹の夏乃共々どうぞよろしくお願い致します」
「い、いえ。こちらこそ……」
水樹の改まった挨拶に櫂人がたじたじと一歩後ろに下がると、透は水樹の肩に軽く手を添えて今度は櫂人に向き直る。
「そして、櫂人。こちらが今度私が養子に迎える水樹君だ」
「な……!」
言葉にならない声を発したきり絶句して、櫂人はその場に立ち尽くした。
あまりの衝撃に真っ白になった頭で、それでも目だけは穴の開くほど眼前の二人を凝視する。
水樹という相手の方にはまだ恐縮した様子が見て取れたが、透の方には悪びれたところなど一切見受けられない。それどころか男の肩など嬉しそうに抱いている兄の、あまりの情けなさに、櫂人は握った拳が震えてくるのを抑えられなかった。
兄のゲイ疑惑に関しては今まで身内として山ほど迷惑を掛けられてきた。兄弟ゲンカもその度にしてきた。だが、それでもまだ救いはあった。何故なら、それらのことはあくまでも噂の範疇に過ぎなかったからだ。
だが、今回は違う。
養子縁組という法律上の手続きを取ることは、マスコミの無責任なゴシップ報道とは次元が違うのだ。仮にも弁護士の透がそのことを念頭に置いていない訳がない。
いくらスポーツ紙や芸能ニュースで結婚記者会見だの何だのと騒がれていても、それだけはないだろう、何かの間違いに違いないと一縷の望みを繋げてここに来た櫂人にとって、この事態はまったく容認しがたいことだった。
「何考えてんだ! 本気で養子縁組なんかする気かよ?!」
「無論だ。きちんと記者会見もしただろう。だから怒っていたんじゃないのか」
怒り心頭の弟にまったく動じた様子もなくしれっと言って退ける透をこれでもかと言うほど睨み付けると、思い切るように視線を断ち切って櫂人は俯いた。
わなわなと全身が震える。
「……俺はもう、今日という今日は心底テメーには愛想が尽きた……」
あまりの怒りに呼吸までが熱く震え、なかなか出て来ない言葉を何とか絞り出し、透に向かって櫂人は吐き捨てた。
「男と結婚なんて絶対ぇ認めねえからな! お前なんか、もう俺の兄貴でも何でもない! 今日限り絶交だッ!」
「え、ちょっと!」
慌てた夏乃の制止の声にも耳を貸さず、踵を返した櫂人は玄関に向かってずんずん大股に歩いていく。
「ねえ、あれ追いかけなくてもいいの?!」
夏乃がリビングの方を振り返ると、透は溜め息混じりにやれやれと首を揺らした。
「放っておけばいい。そのうち収まるさ」
弟から養子縁組を反対され絶交を宣言されたというのにやけに落ち着き払っている透を見て、
「え。もしかして、こういうことってしょっちゅうある……?」
夏乃が窺うようにすると水樹は困ったように曖昧に微笑んだ。
「ええと……。僕が知ってるだけでも四回ぐらいはあったかな、絶交……」
「はあ……」
夏乃は唖然としてしまった。
学校で見るモテ男の櫂人とは随分印象が違う。本当に同一人物なのだろうか。夏乃の知っている早渡櫂人はタラシではあるが、あまり怒鳴ったりはしない取りあえずの常識人のはずなのだが。
夏乃が櫂人の出ていった玄関のドアを何となく見ていると、ガチャリと控え目な音がして、閉まっていたドアがそっと開いた。
「何やってんの?」
夏乃が訝しげに玄関の上がり框のところまで出てみると、少しだけ開いたドアの向こうから櫂人が不機嫌面を覗かせていた。夏乃の顔を見ると極低い声で手招きする。
「青葉さん、ちょっと」
「何?」
「いいから、ちょっと来いよ」
夏乃はスニーカーを突っ掛けると中に入ってこようとはしない櫂人の前に立った。櫂人は透同様ドアの枠に頭をぶつけそうな長身なので、顔をちゃんと見るために小柄な夏乃は一歩下がる。
夏乃を見下ろす形の櫂人は、捨て台詞を残して出ていった手前、かなりきまり悪そうにしている。
「何なの。謝りに来たんじゃないの?」
夏乃がそのことに触れると、また眉間に酷く縦皺を寄せた。
「何で俺が謝らなきゃならないんだよ! 悪いのはアイツだろ」
「何そんなに怒ってんの」
夏乃が呆れたように顔を顰めると櫂人は更に声を荒らげた。
「お前は腹立たないのかよ! 男同士結婚するつもりなんだぞ!」
「声が大きいよ。結婚じゃなくて養子縁組でしょ」
「どっちだろうと非常識なのは同じだ」
一応辺りを憚ったのか、櫂人は声のトーンを一段落とす。
夏乃は溜め息を吐いた。ついでに説得してみようと試みたのだが、完全にそっちの方向だと思い込んでいる。これでは話が噛み合わず、切りがない。
「そんで、何の用なのよ」
本題を思い出したらしく、櫂人は表情を改める。
「ちょっと外まで付き合ってくれよ。敷地の外、一区画ぐらいでいいからさ」
「? 別にいいけど……」
怪訝そうにしながらも夏乃が了解すると、
「恩に着るよ」
櫂人は明らかにほっとした様子で表情を和らげた。
「兄さん、あたしちょっと出てくる!」
奥に向かって一声掛けると、突っ掛けただけだったスニーカーをきちんと履き直して夏乃は櫂人と一緒に部屋を出たのだった。
エレベーターでエントランスホールまで降りると、櫂人は真っ直ぐ玄関扉には向かわず、大きな身体でこそこそと窓際の大きな観葉植物に隠れるようにして脇のスペースから外を窺った。
「ちっ。まだいるな……。まったく。どこで嗅ぎ付けるんだか」
夏乃が櫂人の視線の先に目をやると、敷地の境界の辺りに数人の男達がたむろしていた。皆似たような印象のラフな格好をしている。敷地の奥まで入ってこないところを見ると、ここの住人ではないようだ。
「何、あの人達。知り合い?」
「マスコミ。テレビカメラないから週刊誌の記者だろ、多分」
「え、あれが記者なんだ。何だか地味」
「地味でもしつこさは薮蚊並みの連中だ。鬱陶しいったらないぜ」
そう言うなり櫂人は小柄な夏乃の身体を抱き込むように引き寄せた。そのまま肩に手を回す。
「ちょっと。馴れ馴れしく触んないでよ」
夏乃が見上げて睨付けると、軽く片手を上げて拝むマネをする。
「いいから、ちょっとだけ彼女のフリしてくれよ。アイツに文句言う事ばっか考えてて、女調達してくるの忘れたんだ」
「はあ?」
詳しい事情はわからないが、櫂人の言い様は女なら誰でもいいと言っているように聞こえる。
「何でそんなことする必要があんの?」
夏乃が眉根を寄せて尋ねると櫂人は口篭った。嫌そうに顔を顰める。
「いいだろ。そんなこと」
「あっそ。人に協力を求めるのにその態度」
冷たく肩の手を振り払って踵を返す夏乃を櫂人が慌てて引き止める。
「待て。わかった。言うよ」
夏乃の腕を掴んだまま、櫂人はそれでも言いにくそうにあらぬ方向へと視線を逸らしてぼそりと口にする。
「……アイツの男に間違われんだよ」
「は?」
にわかには意味を汲み取れなくて夏乃が僅かに眉を顰める。
「だから」
櫂人は溜め息を吐くと心底嫌そうに吐き捨てた。
「桐生の付き合ってる男子学生ってのに結構な確率で間違われんだよ、俺は」
「何それ。もしかして、それで毎回ナンパしてる訳? バッカじゃないの。ほっとけばいいでしょ、そんなの」
「そうは行くか! ゲイに間違われた俺の名誉はどうなるんだよ。たまに生番組の中継とかあるんだぞ。そんなもんに捕まってみろ。アイツの弟だって弁解したところで結局は全国的に晒し者じゃねえか。大体――」
今思い出したとばかりに櫂人は夏乃を睨み付けた。
「要するに俺はお前の兄貴と間違われてたってことだろ。妹なんだから責任取って一回ぐらい協力しろよ」
いささか理不尽な理屈ではあるが、それを持ち出されるとさすがに何だか気の毒のような気もする。
夏乃は溜め息を吐いた。
「わかったよ。しょうがないな。今日だけだぞ?」
「取りあえずこの場を凌げりゃいいよ」
早速肩に手を回そうとする櫂人に肘鉄を喰らわせて夏乃は先に立つ。
「身体に触るの禁止」
「いいだろ、肩ぐらい。減るもんじゃなし。らしさの演出だろ」
「触らなくたって、らしさぐらい出るだろ。銀座のバーじゃないんだからベタベタすんな。暑苦しいよ」
「ケチ」
ひとつ悪態を吐くと、夏乃の後について櫂人はエントランスの自動ドアを潜り抜けた。
「櫂人君怒ってましたね」
遥か上階のバルコニーから、二人並んで敷地を出ていく夏乃と櫂人を見送って、水樹はリビングに戻った。先程からフローリングに座り込みアタッシュケースから取り出した書類を広げている透に声を掛ける。
「どうして櫂人君に本当のことを教えてあげないんですか?」
傍らに膝を突いて自分と同じように座り込んだ水樹を見て透は笑った。
「君に四年間学資援助をしていたことも養子縁組しようとしていることも本当のことだろう? それ以上の真実を知りたければ直接私に聞けばいい。なのに、実の兄より週刊誌なんかを信用するからああやって一人でカリカリする羽目になるんだ。そうは思わないか?」
水樹は曖昧に笑うしかない。
口では最もらしいことを言いながら透がこの状況を愉しんでいることは明かだ。
「まあ、あれのことは気にしないでくれ。既に両親からは賛同を得ている。夏乃君の同意が得られたなら、それで問題はない」
床に広げられた養子縁組届をしばらく見詰め、水樹は遠慮がちに口を開く。
「でも、身内になる訳ですし……。出来れば穏便に、櫂人君の賛成をもらってから手続きしたいんですけど」
届出用紙から目を離して水樹が窺うようにすると、透は穏やかに見返して仄かに笑みを浮かべた。
「では、もう少し待ってみるかね?」
水樹はほっとしたように柔和な笑みを見せる。
「はい。お願いします」
Fumi Ugui 2008.05.15
再アップ 2014.05.21